つゆの合間のよく晴れわたった休日の昼、伊勢丹会館で母と一緒にすしを食べたあと、老舗追分のあんみつとだんごのセットを二人で分けた。母はくり返し値段が高いと言った。店内には案外男性客が多い。ベトナム人と思われる若い女性客もいた。
その後、新宿御苑を1時間ほどかけて一周した。休日なのに、あまり人がいない。暑いからだろう。木蔭を選んで歩いても汗だくになった。御苑のなかにある温室に初めて入ったが、なかなかいい。順路の初めに仏教にちなんだ植物を配しているのが気に入った。
御苑を出て、満席のコーヒーショップに入って小休止する。拭けどもふけども汗が止まらない僕を見て、すごい汗だね、と不思議そうに言う母。その時点で、彼女の記憶には御苑の散策がない。あるいは、あっても言葉にならない。すしもあんみつもない。シロップを二つ入れたアイスコーヒーに満たされている。
母の記憶に残らないことに汗を流す自分。刹那よりは長い時間の対話が成り立つからいいのだが、母はさほど長く記憶することができない。いつしか、それでいいと思うようになった。母の記憶の代わりに写真を撮る。