新春浅草歌舞伎をみた。演目は寿曽我対面、番町皿屋敷 、乗合船恵方萬歳だった。このなかでもっとも印象に残ったのは番町皿屋敷だ。
青山の旗本である播磨は独身だが、叔母の進める縁談に興味を示さない。密かに腰元のお菊とねんごろな関係にあるからだ。
そのお菊が、播磨の家に伝わる高麗青磁の皿をわざと割って播磨の自分に対する気持ちを確かめようとする。それを知った播磨は自分の一途な愛を疑われたことが許せず、お菊を殺めてしまう。
皿屋敷にまつわる民間伝承は各地にあり、歌舞伎でも古くから演目に入っているようだ。僕がみたのは、新歌舞伎の作者で小説家の岡本綺堂(1872-1939)が著したもので、播磨とお菊の恋愛関係に基づく皿屋敷の新解釈ともいえそうだ。彼自身、吉原の芸妓だった女性を身請けして結婚したという。
初演は本郷座で1916(大正2)年とあるから、日露戦争終結から11年、大日本帝国による大韓帝国併合から6年、進行中の第一次大戦(1914-18)、石川啄木が「時代閉塞の現状」に描いた状況のなかで岡本綺堂が創作した番町皿屋敷の主題はいったい何だったのだろうか。