70年代前半、韓国企業の東京支社に勤めていたころ、レコードでくり返し聞いた韓国フォーク歌手の歌を聞いている。現在の心境を映し出しているからだろう、歌詞の一句一句とメロディが僕の胸ぐらを抉るように響く。つゆの季節、ウサン(雨傘)ウサンと叫びながら路上を走っていた少年やミョンドンの薄汚れた路地を歩く迷彩服の若者が目に浮かぶ。僕にとってソウルの原風景だ。

いま日本の高校生たちがBTS(防弾少年団の略称)を聞いて泪(なみだ)し、歌詞で韓国語を覚えるように、僕は70年代のKフォークソングを聞いて韓国に引かれ、独学で韓国語を学んだ。当時くり返し聞いた曲が、それから45年過ぎ70歳を眼前にした老人の胸に響く。音楽とそれとともに思い出される心象風景、記憶って不思議だ。