小説「福澤諭吉」

『福澤諭吉』(四六判 総1050ページ)全3巻は2004年8月から翌年6月に作品社から発行されている。歴史小説のジャンルに分類されるが、資料にもとづき作家の想像力で福澤諭吉の生涯を活写している。著者の岳真也(1947-)は福澤諭吉(1835-1901)以外に中江兆民(1847-1901)や小栗忠順(ただまさ 1827-1868)ほかの伝記も著わしており、世間に流布している検定教科書の定見に囚われず、独自の視点にもとづいて歴史上の人物を描く作家のようだ。何冊か英文の翻訳書も出している。著者自身慶應義塾の出身でもある。

この伝記を通じて、勝海舟(1823-99)、西郷隆盛(1828-77)、小栗忠順[上野介]、井上馨(1836-1915)、榎本武揚(1836-1908)、森林太郎[鷗外](1862-1922)、北里柴三郎(1853-1931)など、多くの人物について僕が知らなかったか誤解していた面を知り、大いに識見を新たにした。特に、勝海舟に対する福澤(著者)の批判は痛烈であり、小栗忠順に非業の刑死を齎(もたら)した一因も勝海舟にあったろうとしている。咸臨丸の艦長とか江戸城の無血開城など美談が多く伝わっているが、脚色されたもののようだ。

福澤諭吉は小栗上野介を高く評価していたようだ。東郷平八郎(1848-1934)も、横須賀造船所(後の海軍工廠)の建設に尽力した小栗上野介を尊敬していたらしく、日露戦争後に小栗の遺児の國子と夫と息子を自邸に招き、國子に向かって父上のお礼を伝えたという逸話は印象的だ。戦勝を可能にしたのは海軍工廠が造った軍艦のお蔭だという意味があったようだ。金玉均(1851-94)と福澤諭吉との関係や朝鮮からの留学生と慶應義塾との関係もよく描いている。

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