韓国語を教えて20年、日本の若者が変わった

昭和女子大学国際学部国際学科

准教授 徐珉廷(ソ・ミンジョン)

クムホアシアナ杯「話してみよう韓国語」高校生大会は2008年8月に第1回を開催し、2020年に13回目を迎えたところでコロナ禍のため中止となった。翌年、主催者の一つアシアナグループが撤退し、いまは韓国文化院主催で継続している。2011年から約10年この大会の審査委員として関わるなかで見えたこと考えたことは少なくない。この期間に日本の韓国語学習者は増え続けたが、最も強く感じたのは若い学習者の質が変わったことである。この変化は日本の若者たちの韓国イメージを変え、日本社会における韓国語の位置づけを向上させたといっても過言ではない。

クムホアシアナ杯には韓国語のスピーチとスキットの部があり、いずれの部門にも全国の高校生が応募してきた。一次審査では録音された音声を聞き韓国語の原稿を読む。応募作は韓国語の指導教員が付いている高校生と一人で学ぶ高校生に二分され、後者には基礎的な誤用が目立った。今日のようなオンライン授業などなかったから、独習者が不利になるし、大都市に比べ韓国語を学ぶ機関が整っていない地方都市の在住者も不利になる。このような状況に鑑み、審査する際いつも悩まされたのは二次審査(全国大会)に進む応募者の韓国語をどこまで訂正しコメントするか、であった。

ところが、2010年代の後半になると、指導教員が付いているかどうか明らかでない応募者が増えてきた。独習者の質が格段にあがり、韓国語普及の影響が如実に表れてきたのだ。同じ時期に私は都内の大学で韓国語を教えているが、その大学生を含め、最近の十代二十代の学習方法が大きく変わったような印象を受ける。比喩的にいえば「手で書いて覚える」学習から「耳から入る」学習に変わりつつある。YouTubeやNetflixの媒体の普及とともに、幼少期からK-POPなどを聞いて馴れ親しんできた新世代の威力を見せつけられるのだ。

韓国イメージと韓国語の地位の変化

来日して20年になる私は、当初、大学院に在籍しながら民間の韓国語学校で教えていた。2000年ごろ韓国語を学ぶ人々は三・四十代が多く、たまに五・六十代の方もいた。韓国語を学ぶ理由は、「韓国のサッカー選手が好き」「韓国人の友人がいる」「韓国に駐在したが、もっぱら日本語と英語で生活していた。日本に戻ってから学びたくなった」など、さまざまだった。なかには「周りの人に韓国語を勉強しているとは言えない」という人もいた。その後、2002年にワールドカップサッカーが日韓共催で開催され、同年NHKが放送した韓国ドラマ「冬のソナタ」が中年女性を中心に人気を博して隣国イメージが大きく変わるきっかけになった。

十代二十代の人々が韓国や韓国語に興味を持つようになるきっかけは圧倒的にK-POPだ。彼らはどうやってK-POPにはまるのだろうか。完璧なパフォーマンス、優れた歌唱力、切れのいいダンスなど、すべてが恰好いい。だから夢中になると思われがちだが(私自身そうだった)、実はもっと奥深いようだ。学生たちから実際に聞いた話を紹介しよう。

「中学生の時とても辛い時期を過ごしたが、好きな韓国人アイドルのお陰で乗り越えることができた。彼らが過酷な状況のなかで努力している姿をみて勇気を得た。だから、自分もがんばろうと思った」という学生。あるいは、「夢も目標もなく、目立たないように過ごしていたが、K-POPの一曲(歌詞:누가 뭐라 해도 난 나야. 난 그냥 내가 되고 싶어. 誰が何と言おうと私は私、ただ私になりたい)の歌詞に勇気をもらい、難しいことに挑戦しようという気持ちになれた」という学生。こういう学生は決してめずらしくない。話してくれる学生だけで毎年何人かはいる。彼らに共通するのは「自分が辛かった時期にK-POPが心の支えになってくれた」ということなのだ。

韓国と日本は地理的に近いだけでなく、日本語と韓国語は類型論的に近い言語であるとよく指摘される。欧米系の言語や中国語と比較して、日本語と韓国語がいずれも<主観性>の高い言語であることも知られている。研究によれば、韓国語よりも日本語の方が<主観性>の度合いが高いといわれる。言語だけでなく、文化・社会についても、欧米対日本の図式では見えなかった日本的特性が、隣りの国「韓国」と比べることで浮き彫りになる。これが韓国語を学ぶ最大の魅力でありメリットだろう。韓国語を学ぶ若者は自らが話す日本語や彼らが属す日本社会を相対化する観察眼を養うことができるし、ぜひそうなってほしい。

韓国語の学び方も時代も変わった

スマートフォンが手のひらの一部となり、デジタルメディア環境のなかで育って活字より映像に親しんできたデジタル世代は、個別化された学習に対する要求が強い。コミュニケーション能力(literacy)において、口語リテラシー(oral literacy)、文語リテラシー(written literacy)、デジタルリテラシー(digital literacy)がほぼ同じ比重で作用していた既存パラダイムが長いあいだ人々の思考を支配してきた。現代の非接触文化(uncontact culture)時代にあって、デジタルリテラシーの比重が益々増えていくことは想像に難くない。

2020年代初めに世界中を襲ったコロナ禍の余波を受けて徐々に浸透してきた授業のデジタル化や非対面による言語学習が本格的に動き始めている。世界で110万人以上が利用しているといわれるTalk to me in Korean (https://talktomeinkorean.com/)がその代表格といえる。わかりやすい英語で韓国語を教える無料YouTube動画も少なくない。韓国語教育の領域だけを見ても時代は大きく転換しようとしている。日韓を二国間関係の枠組みだけで捉える時代は過去のものとなりつつある。いや、若者たちの間ではすでに過去のものになっているのだ。

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