Wanda Landowska; the Well tempered clavier, Glenn Gould; Bach English suites などの器楽曲を聴きながら、むし暑い部屋のなかで安楽椅子に深々とすわって本を読む。本こそ違え年齢は違っても気持ちは五十数年前に高校生だったときの夏休みと同じだ。錯覚といわれればそのとおりだが、記憶力の悪い僕には錯覚だとは思われない。まったく同じ時空にいるような気がするのだ。病んでいるといわれれば、そうかもしれない。
きょう読んだのは民法の判例集。たとえば次の事例(大審院連合部判決明治41年[1908]12月15日民録14輯)、もちろん縦書きである。
抑民法に於て登記を以て不動産に関する物権の得喪及び変更に付ての成立要件と為さずして之を対抗条件と為したるは既に其絶体(マゝ)の権利たる性質を貫徹せしむること能わざる素因を為したるものと謂わざるを得ず。然れば則ち其時に或は待対の権利に類する嫌あることは必至の理にして毫も怪むに足らざるなり。是を以て物権は其性質絶対なりとの一事は本条(民法177条*)第三者の意義を定るに於て未だ必しも之を重視するを得ず。
加之本条の規定は同一の不動産に関して正当の権利若くは利益を有する第三者をして登記に依りて物権の得喪及び変更の事状を知悉し以て不慮の損害を免るることを得せしめんが為めに存するものなれば其条文には特に第三者の意義を制限する文詞なしと雖も其自ら多少の制限あるべきことは之を字句の外に求むること豈難しと云ふべけんや。
*第177条 [不動産に関する物権の変動の対抗要件] 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。