文聖姫著『麦酒とテポドン: 経済から読み解く北朝鮮』(平凡社新書 2018年12月)を読んだ。麦酒とは、Economist 2012-11-24(下に引用)が韓国のビールよりうまいと評した大同江(テドンガン)ビールのことであり、北朝鮮の改革・開放経済を象徴している。[上の写真 (c) KKF]

…..And despite the recent creation of Hite Dry Finish—a step in the right direction—brewing remains just about the only useful activity at which North Korea beats the South. The North’s Taedonggang Beer, made with equipment imported from Britain, tastes surprisingly good…..

著者は在日コリアン二世で、北朝鮮系民族学校から日本の大学に進み、朝鮮新報(総連の機関紙)に入社して2006年まで勤める。02年の日朝首脳会談で拉致事件の真相が明らかにされたことに大きなショックを受けるが、平壌特派員(3-4ヵ月)を二度経験し、短期出張でも何度か北朝鮮を訪ねている。2018年に朝鮮籍から韓国籍に変更している。

本書の副題にあるとおり、著者は北朝鮮を「経済から読み解」こうとしながらも、可能な限り北朝鮮のふつうの人々の生活に迫ろうとする。北朝鮮について基礎知識を持たない僕は、時期が前後する北朝鮮のニュースや統計の断片がつながりにくく、初め焦点の定まらない映像をみるような感じがしなくもなかった。固定観念という老眼のせいだったかもしれない。

ただ、読み進めていくうちに著者独自の視点が見えてきて、北朝鮮の人々の姿がおぼろげながら浮かび上がってくる。第4章大同江(テドンガン)ビールと改革・開放」に至って、勤め帰りにビアホールに立ち寄り、おいしいビールを飲んでいる人々の姿がその表情とともに伝わってきた。

全体を通じ著者が北朝鮮と韓国を心から愛していることが温かく伝わってきてすがすがしい。また、僕らが知っている北朝鮮に関する情報がいかに偏頗なものか、そのもとにある日本社会や韓国ないし中国や米国に対する見方がどれだけ断片的なものかを気づかせてくれる貴重な観察録である。

本書の章だては次のとおりだ。第6章と7章は新聞等で周知の情報も多く、一般読者には読みやすい。はじめにこれらの章を読んでから第1章を読む方法もあるかもしれない。

  1. 市場経済化の波は止められない
  2. 経済から読み解く金正恩体制のゆくえ
  3. 北朝鮮の人々
  4. 大同江(テドンガン)ビールと改革・開放
  5. ブラックアウト、消えた電力
  6. 南北経済強力と文在寅政権
  7. 核開発とミサイル

大同江テドンガンビールの関連情報ほか↓

(c) Retailnews Asia 2016.04.05

米国製の大同江(テドンガン)ビールもあるようだ。ラベルの上方に<醸造の自由>とあるのがいかにもアメリカらしい。

大日本帝国が大韓帝国を植民地化した1910年の翌年、大阪で発行された朝鮮全地図の裏面に当時の平壌市街図が載っており、右寄りに大同江(テドンガン)が太く描かれている。現在のビール工場がどの辺にあるのか想像すると、ほのかな酔いに襲われるかもしれない。

1911年発行朝鮮全地図の裏面